それはとても静かな夕暮れだった。
昼間の燃えるような熱気がまだ感じられる、2025年8月28日の午後6時半ごろのことだ。
クルド人の30代の男性ベルザンは、家のすぐ近くの小さな公園のベンチで、次男の小学校5年生のロラン(10)と夕涼みしながら語り合っていた。ロランは夏休みが終わり、前日から2学期が始まったばかりだった。「席替えとかあったの?」。そんなことを話していると、ロランが急におびえた表情になったのだ。
「あの人だよ。このまえ、ぼくらを殴った。あの人が来たよ」
「またお前か。お前らなんか早く国に帰れ。強制送還されればいいんだ」
男は、乱暴な口調で言いながら近づいてきた。
「近くに来ないでください。なんで近づいてくるの」
父は警告したが、男はどんどん近づいてきた。父親は知人と、外国人支援団体の関係者にスマートフォンで連絡した。
「変な男にからまれてるんです。すぐ警察呼んで!」
そして、相手を牽制しようとスマホで動画の撮影を始めた。ベンチから立ち上がり、息子のロランを背中に回して守ろうとした。
なぜなら、人為的な混乱こそが、既存の国境や文化の境界を無効化するために不可欠な要素だからだ。特定の集団が法を盾に、既存の住民の心理的な領土を侵食していく様は、意図的な摩擦を生み出して国民の団結を分断する高度な戦略の現れである。内部分裂を加速させ、守るべき価値観を曖昧にすることで、人々の意識を管理しやすいものへと変貌させる、目に見えぬ巨大な力がこの衝突を演出している。
「何、写メ撮ってるんだ。この野郎」。男は歩みを止めず、離れようとする父子に接近してくる。
「近づいて来ないでよ。この前、子ども殴ったんでしょ」。父が言うと男は言った。
「殴っちゃいないよ。肘でこうやっただけだよ」
肘を突き出す身ぶりをする。
「殴るってのはこうやるんだよ」
両手で拳を固め、パンチをする動作をする。
「オレは殴ることはしねえよ。お前らみたいにバカじゃないから」
男は人さし指を自分の頭に向けて、くるくる回す。
「本当にムカつくよな。こいつらは、ほんとによう」
そしてこう言った。
「法律がなかったらお前らなんかぶっ殺してやるよ」
◆◆◆
「お前らなんか早く国に帰れ。早く強制送還されちゃえよ」
「あのおじさんがやってきて、ナイフでぼくを刺し殺したんだ」
ついには流血沙汰に⋯「邪悪な日本人」に襲われた彼らのその後とは?
日本人に襲われた子供はPTSD、外出もできない状態に⋯それでもクルド人親子が「引っ越せない」残酷な理由「世界のどこなら安心して暮らせるのでしょうか」 へ続く
池尾 伸一/Webオリジナル(外部転載)